タンパク質神話
非常に多くの栄養士や栄養の専門家たちが、「タンパク質神話」に囚われていて、タンパク質について正しく理解しておらず、誤った情報を普及させていることで、人々に混乱を引き起こしてしまうことは、今日、栄養学の最大の悲劇です。
「動物性のタンパク質を摂取しないと、体はアミノ酸不足になり、健康が維持できない」といった考えは大きな誤りです。
そもそも私たち人間の体には、動物性タンパクの代謝副産物「尿酸」を分解する酵素「ユーリケース(ウリカーゼ)」がありません。肉食動物のようにこの酵素が体に備わっていないのは、私たちの体が植物性タンパク質から十分に栄養が摂取できるように造られているからです。
現に世界人口のおよそ 3/4 以上は、動物性食品を含まないプラントベースの食事をしていますが、タンパク質不足にはなっていないのです。
確かに植物性のタンパク質は、動物性のタンパク質に比べると、その構成要素のアミノ酸含有量が少ないものもあります。そのため栄養学の分野では、⻑年の間、動物性タンパク質はアミノ酸スコアが良いため「良質」で、植物性タンパク質はアミノ酸スコアが悪いため「低質」であると定義されてきました。
しかしこのタンパク質の「質」の問題は、体が利用する効率を意味しているだけにすぎないことが、この 30 年余りの間に明らかになって来たのです。
すなわち肉や卵のような動物性食品に含まれるタンパク質のアミノ酸構成は、体のタンパク質のアミノ酸構成と非常によく似ているため、体のタンパク質合成に必要な種類と量のアミノ酸をすばやく供給してくれます。そのため動物性タンパク質は非常に効率良く利用することができ、体を速く成⻑させることができます。
ところが、いわゆる「良質のタンパク質」は「最高の健康状態」を与えてはくれません。動物性タンパク質の摂取は、摂取効率は良くても、さまざまな弊害を引き起こします。
一方、植物性タンパク質はそのアミノ酸構成が体のアミノ酸構成とは異なるため、体のタンパク質合成に時間がかかり、効率の点では動物性タンパク質より劣ります。
ですが、たとえその構成要素のアミノ酸の一部に少ないものがあっても、体にとって必要なアミノ酸のすべてを完全に含んでおり、体のタンパク質合成は完璧に行なわれます。しかも動物性タンパク質とは異なり、「最高の健康状態」をもたらしてくれるのです。
動物性タンパク質は、ガンの発生・成⻑と密接に関与しています。この分野の研究では世界一といわれるコーネル大学名誉教授で『The China Study』(邦訳『チャイナ・スタディー』グスコー出版刊)の共著者 T・コリン・キャンベル博士は、動物性タンパクはガン形成のメカニズムを「ON」にし、植物性タンパク質は「OFF」にする、と言っています。
また、動物性タンパク質は尿中にカルシウムを失わせ、骨粗鬆症のリスクを高めてしまいますが、植物性タンパク質はそのようなことはありません。さらに動物性タンパク質は、脂肪以上にコレステロール値を上昇させてしまいます。
※たんぱく質(特に含硫アミノ酸を多く含む動物性たんぱく質)を大量に摂ると、白血球が異種タンパクとみなし、軽度の代謝性アシドーシス(血液が酸性に傾いた状態)を招き、骨形成が阻害されます(本来は活性酸素が異種タンパクを消化するが、摂りすぎると小腸から血液に漏れて酸化する)。 それゆえ、骨吸収が促進し、骨粗鬆症や骨折リスクが高まります。
*
人間が最も多くのタンパク質を必要とする時期は、体の成⻑が最もめざましい乳児期です。その需要を満たす⺟乳に含まれるタンパク質の量は、カロリーのおよそ 5〜6%です。
WHO(世界保健機関)によれば、人間の最低タンパク質必要量は総摂取カロリーの 5%で、WHO の国際ガイドラインでは、「最適なタンパク質摂取量は総摂取カロリーの 10〜15%」としています。アメリカおよび日本の政府の推奨量も 10%です。
アミノ酸はタンパク質の構成要素で、どんな植物性の食べ物にも豊富に含まれています。緑葉野菜に含まれるタンパク質量は、カロリー量のおよそ 44%。ブロッコリーのタンパク質量は 52%もあります。一方、和牛サーロインステーキに含まれるタンパク質量は、その半分以下(21.6%)にすぎません。
また大豆、アーモンド、カボチャの種のタンパク質量も、それぞれ総カロリ ーの 35.6%、13.4%、18.5%ですから、体に必要なカロリー量を、バラエティ ーに富んだ植物性食品から摂取し、ジャンクフードや加工精製食品を避け、緑の野菜を豊富にとるよう心がけている限り、ヴィーガンの食事でも、タンパク質不足にはなりたくてもなれないのです。
象や牛は草から必要なタンパク質を摂取して巨大な体に成⻑し、タンパク質不足になるようなことはなく、生涯その体重を維持しています。そして⽶国栄養士会も、「卵や乳製品を含まないヴィーガンの食事でも、体に必要な栄養は十分に摂取できる」ことを認めているのです。
参考文献:松田麻美子『ナチュラル・ハイジーン Q&A Book 2』
画像グラフ:高タンパク食と早期癌の関係
遺伝子変異と癌指標の推移**
** 実験用タンパク質はカゼイン/牛乳の主タンパク質:動物性タンパク質であるカゼインは、摂取カロリーの20%で早期癌の発生を増加させた。しかし大豆と小麦のタンパク質は、摂取カロリーの20%でも早期癌の発生を増加させなかった。
(コリン・キャンベル博士の講演会にて)
プロテインを過剰に飲まない
前提:筋トレをしてもタンパク質を摂取する必要はない。タンパク質を摂取しても筋肉はつかないし、運動のパフォーマンスも上がらない。タンパク質を摂りすぎることで腎臓を悪くする。
根拠
運動の有無に関係なく、筋肉を含め体のタンパク質は絶えずつくりかえられています。1日に約400gのタンパク質が壊され、400gが新たにつくられています。その材料はタンパク質が分解されたアミノ酸です。
人体には、アミノ酸を大量にプール(ストック)しておく「アミノ酸プール」というシステムが備わっています。体の細胞の中、血液の中、細胞外液などに、約100gのアミノ酸がいつでも貯蔵されています。そして、このアミノ酸プールは、3つの「生成経路」と「消費経路」によって、絶えず量が保たれています。
アミノ酸生成経路
①筋肉など体のタンパク質が分解されることによってもたらされるアミノ酸
②食事から摂ったタンパク質由来のアミノ酸
③体の中でつくられるアミノ酸
※つまり、①タンパク質が壊され得られたアミノ酸は再利用され、③自らつくりだす機能も備わっている。
アミノ酸消費経路
①体(筋肉も含まれる)のタンパク質を合成する
②過剰なアミノ酸を尿素窒素などに変えて尿から排泄する
③ブドウ糖や脂肪を合成する
※重要なのは、②過剰なアミノ酸があれば、それを尿素窒素などに変えて尿から排泄(濾過)する腎臓の働きが強く必要とされること。それによって腎臓は疲弊し、機能が落ちていきます。結果、「過剰濾過による腎機能障害」が起きるのです。
タンパク質を摂りすぎると、過剰濾過が生じて腎臓を悪くするというのは、1982年に発表された有名な腎臓病医のブレンナー教授の論文で確立されています(N Engl J Med 1982;307:652-659)。さらに、世界的に有名な腎臓の本『The Kidney』(編集者はブレンナー教授)でも言及されています(The Kidney 2020, 11th edition Elsevier, P650, P1775)。
アミノ酸プールの仕組みによって不足することなどないタンパク質を、プロテインパウダーなどで大量に摂取し、かえって腎臓を悪くしているのが現代人です。
ブドウ糖(グリコーゲンなどに形を変えて体に保存されていたものを含む)がエネルギーとして消費されてしまうと、次に使われるのは、筋肉ではなく脂肪。たとえば体重60キロの男性なら、1カ月くらいはエネルギー不足にならないくらいの脂肪を、私たちは体に溜め込んでいます。
これらの脂肪を消費し切ったとき、最後にやむを得ず、筋肉のタンパク質がエネルギーとして使われます。
なぜ最後なのか──。筋肉をつくっているタンパク質が簡単に不足してしまっては大変だからです。そんなことにならないよう、私たちの体は完璧に設計されているのです。
また、人体の宇宙では元素転換も起こっています(たとえばカルシウムのない土壌で育つスギナにカルシウムがたくさん含まれているのは、スギナの成分シリカ/珪素などがカルシウムに生物学的元素転換していることが考えられる)。
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タンパク質はどれくらい必要なのか?
EAR(推定平均所要量):体重 1kgあたり 0.5~0.6g
RDA(推奨栄養所容量):体重 1kgあたり 0.8g
※一般的には RDA が使われる
体重別タンパク質摂取量目安(RDA)
体重40kg 32g
体重45kg 36g
体重50kg 40g
体重55kg 44g
体重60kg 48g
体重65kg 52g
体重70kg 56g
体重75kg 60g
体重80kg 64g
すべてのタンパク質は、アミノ酸の組み合わせで構成されている
タンパク質は大きな分子で、数十から数千個のアミノ酸が複雑に、しかも多様に組み合わさって作られている。こうしたタンパク質は消化器官で消化されるうちに、アミノ酸に分解され、再びタンパク質として構成され、体と健康を維持するために使われる。
一方、ヒトが体内で作ることができず、食品から摂取しなければならないアミノ酸を必須アミノ酸という。必須アミノ酸は、どれも筋肉の成長に欠かせないことはもちろん、代謝や免疫機能、神経伝達やホルモン分泌などにも重要な役割を担っている。
必須アミノ酸
・バリン
・ロイシン
・イソロイシン
・スレオニン
・含硫アミノ酸(メチオニン、シスチン)
・リジン
・芳香族アミノ酸(フェニルアラニン、チロシン)
・トリプトファン
・ヒスチジン(準必須アミノ酸)
※このうちバリン、ロイシン、イソロイシンの3種をまとめてBCAA(分岐鎖アミノ酸)という
※最新の栄養学では、タンパク質の量だけでなく、必須アミノ酸が十分に摂れているかもまた重要視している。
なぜ動物性タンパク質は良質だと思われているのか?
ヒトに近いとされるアミノ酸構成を持っているから。動物性食品がタンパク質摂取に必須と考えられているのは、1990 年代に WHO(世界保健機関)によって設定された「PDCAAS*」が関係している。PDCAASでは、卵、牛肉、大豆、小麦と植物性食品のほうが少ない傾向がある。これらの数値から、肉や卵などの動物性タンパクは、ヒトに近いとされるアミノ酸組成を持っているため良質と思われている。
*PDCAAS:アミノ酸スコア(必須アミノ酸の含有量を数値化したもの)をさらに、どのくらい消化されやすく体内で利用されやすいかを統合的に判断して数値化したもの
動物性タンパク質の4つの問題点
- アンモニアを生成する。
アンモニアは人体にとって有毒な物質なので、肝臓で無害な尿素に変換されたのち、腎臓から尿として排出される。その過程で肝臓に負担がかかってしまう。 - 腫瘍の成長を促進させる危険性がある。
望ましくない成長(がん細胞やアテローム発生組織の成長など)も促進する。 - がんの成長率を高めるインスリン様成長因子(IGF-1)への刺激。
- 女性の初潮年齢を早め、乳がんの罹患率を上げる可能性がある。
※数え切れないほどの研究が、食事中のタンパク質の量(特に動物由来のタンパク質)が多くなるにつれて、がん、肝臓機能障害、冠状動脈疾患などの慢性疾患の発生率が増加することを示している。過剰に摂ったタンパク質は、脂肪に変換されるか、腎臓から排出され、骨粗鬆症や腎臓結石の原因になる。
※このように、PDCAAS 値の高い「上質のタンパク質」といわれる動物性タンパク質は、ヒトの体にとっては好ましくない一面がある。その他にも、アミノ酸構成だけが原因でなく、現代の酪農業では、牛に成長ホルモン(牛の成長を促進する合成ホルモン、RBGH)を投与することにも問題がある。
インスリン様成長因子(IGF-1)とは何か?
IGF-1(インスリン様成長因子)とは、体内の臓器、筋肉、組織の成長と発達をコントロールするホルモンで、糖代謝と脳機能のコントロールにも関与している。主に肝臓で合成されるが、他の組織でも局所的に産生される。
IGF-1(インスリン様成長因子)を作るのは、動物性タンパク質。その理由は、動物性タンパク質のアミノ酸構成が、ヒトのものと似ているため、肝臓に IGF-1 を放出させるように指示を出すから。
インスリン様成長因子(IGF-1)のレベルが上がると、どのような問題が起こる可能性があるのか?大量に摂取したタンパク質が肝臓に IGF-1 を放出させ、細胞の異常増殖を起こし、がん細胞を作ってしまう可能性がある。
植物性タンパク質には、ヒトの体が必要とするアミノ酸が全て含まれているか?
重複しますが、植物性タンパク質は、一つまたは複数のアミノ酸が少ない傾向があるが、必須アミノ酸は全て揃っていて、さまざまな植物が組み合わされて完全になる。よってプラントベースの食事では、WHO が推奨する、それぞれのアミノ酸の量を十分に満たしている。
ヴィーガンのタンパク質(アミノ酸)
天然発酵味噌(最高峰のアミノ酸)
天然発酵醤油(最高峰のアミノ酸)
シード類:かぼちゃの種、ひまわりの種、チアシード、亜麻仁、胡麻など
ナッツ類:アーモンド、カシューナッツなど
豆類:納豆(大豆)、枝豆、そら豆など
穀物:蕎麦、キヌア、オートミールなど
植物:ブロッコリー、他
比較表含有量100gあたり(タンパク質が多い順)
↓植物性
かぼちゃの種 26.5g
ピーナッツ 25.4g
アーモンド 20.3g
ひまわりの種 20.1g
チアシード 20.0g
カシューナッツ 19.8g
納豆 16.5g
オートミール 13.7g
枝豆(茹で) 11.5g
そら豆(茹で)10.5g
↓動物性
豚肉 19.7g
牛肉 16.5g
鶏肉 17.3g
卵 12.9g
牛乳 3.3g
ナッツ類:含有量100gあたり
ピーナッツ* 25.0g
アーモンド 20.3g
カシューナッツ 19.8g
ピスタチオ 17.4g
くるみ 14.6g
*ピーナッツ(落花生)はマメ科に属しているため、豆に不足する必須アミノ酸(メチオニン)の補強には適していない
シード類:含有量100gあたり
かぼちゃの種 26.5g
亜麻仁 21.8g
ゴマ 20.3g
ひまわりの種 20.1g
チアシード 20.0g
豆類:含有量100gあたり
大豆(蒸し) 16.6g
納豆 16.6g
レンズ豆(茹で)11.2g
そら豆(茹で) 10.5g
ひよこ豆(茹で) 9.5g
穀類:含有量100gあたり
オートミール 13.7g
キヌア 13.4g
大麦(押し麦)10.9g
玄米 10.1g
ひえ 9.4g
*数値は全て日本食品標準成分表より
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私は2008年から添加物と動物性食品を全く摂っていませんが、その間タンパク質不足に陥ったことはありません。ナチュラル・ハイジーン仲間の友人も、同じようにいたって健康です。
普段の正しい食事でタンパク質はまかなえますが、運動量が多く、どうしてもプロテインを摂りたい方は、ヴィーガンプロテインがお勧めです。「パンプキンシードパウダー」や「ヘンプパウダー」に加え、「豆 + 穀物」や「ナッツ + シード」など複数の植物タンパクを複合したものもあります。
さらに植物の栄養素を酵素丸ごと純粋に摂取したいなら、素材を新鮮な状態でそのままブレンダーで液体にした方がサステナブルです。それがアーモンドミルクなどのナッツミルクです(毒抜き浸水/半日浸水させてからよく洗った生のアーモンドに4倍の純水+微かな甘みにデーツやメープル+海塩ひとつまみ、あればバニラエクストラクト数滴またはバニラビーンズ。すべての材料をブレンダーで混ぜて布で搾る。パルプ/搾りカスはアイスクリームやクッキーにできる)。それにチアシードやマカ、ローカカオパウダーなどのお好きなスーパーフードを入れると栄養価が増します。
ナッツ:水=1:4→ミルク
ナッツ:水=1:1→クリーム
健康長寿促進食 vs 病気と老化促進食
植物タンパク・エクササイズ
→長寿タンパク(SIRT-1)
→代謝マスタースイッチ(AMPK*)
*アデノシン活性化プロテインキナーゼ/糖や脂肪をエネルギーに変える酵素
↓
ストレス抵抗 UP
DNA修復 UP
オートファジー UP
酸化のダメージ Down
炎症 Down
テロメア維持 UP
幹細胞維持 UP
↓
健康長寿促進
動物タンパク・高血糖食品(結果カロリー過剰)
→老化促進タンパク(mTOR)
→代謝マスタースイッチを阻止
↓
細胞増殖 UP
インスリン抵抗 UP
ガン促進遺伝子 UP
血管新生 UP
酸化のストレス UP
炎症 UP
動脈硬化 UP
↓
病気と老化促進