食と意識

 

 近年の青少年の犯罪は加速度的に劣悪化し胸が痛みます。彼らの更生や心の癒しのためには多くの場合カウンセリングが試みられます。これまで私は瞑想中心のヨーガ療法をダルクや刑務所に取り入れてきました。幸いそれがうまくいくケースもありますが、現実はそう易くはありません。しかしもし、こうした青年たちに関わる専門家や家族が「食事によって人の心や行動は変わる」ということを理解し取り入れるならば、どんな結果をみるでしょうか。

 最年少でボクシングヘビー級世界王者になったマイク・タイソン氏は、現役時代に対戦相手の耳を噛み切る、レイプや暴力事件で逮捕される、引退後は麻薬依存症になるなど、荒れた日々を送りました。しかし後年、幼い娘の事故死をきっかけに更生を決心し、麻薬中止はもちろん、食事は「完全菜食」に替えました。その結果60kg減量し、性格もすっかり穏やかになりました。それまでは彼自身も他の誰も彼の行動を変えることはできませんでしたが、食事はこの働きを自然に成し遂げました。さらに興味深い報告があります。

 カリフォルニア州に住むデリーモーアランド氏は、食事と生活習慣が及ぼす心身への好影響を、囚人たちにも与えたいと望み、私立の刑務所を設立しました。囚人は一般の刑務所と同じ生活様式と、ニュースタート健康法を実践する生活様式のどちらかを選べましたが、8割の囚人は後者を選び、「完全菜食、怒りのコントロール法、聖書の学び、職業訓練」などを受けました。その結果、このコースで生活した囚人間には人種問題は皆無となり、出所後の再犯率もわずか2%でした。一般刑務所での再犯率95%に対し驚くべき成果です。

 イギリスのエールズベリー少年院でも栄養と精神状態の密接な関係に注目し、ビタミン、ミネラル、オメガ3脂肪酸のサプリメントを少年たちに与える実験をしました。その結果はすぐに現われ、子どもたちの暴力は37%減少しました。しかし実験が終わると子どもたちはたちまち荒れ始めました。同種の別の研究に参加したある少年は、「まるで自分じゃないみたいだ、3カ月以上誰の顔も殴っていない。これが俺か・・信じられない」と語ったといいます。

 通常、非行少年や犯罪者の更生を助けるのは専門家でなければ難しいと考えられています。確かにそう言える面はあります。しかし、諸外国の事例の様に「適切な食事を規則的に摂り、必要な栄養素が十分に与えられる」ならば、意識が変わり自己変容し、多くの場合は自然に人間性を回復していきます──これが私がヨーガ療法に食事療法を加えた理由です。これらの研究と事例は今後一般社会の中でも広く理解され、試みられることを強く願います。

 さらには、私たちの家庭内の食事や学校給食にもプラントベース・ホールフード(未精製未加工の植物性食品)を主軸とした完全菜食やオメガ3脂肪酸、生の植物から得られるファイトケミカルなど本物のエネルギーが取り入れられるならば、近年の暴力や非行問題に格段の改善がみられ、何より、争いにより血を流す人はいなくなる──そう信じています。病院食も同様、医師の意識が変われば、どれほど美しい世界になるでしょうか。

 その前に、根本的な理智鞘、精神性を育てる「暮らし」はいかがでしょうか。核家族化、単身赴任、鍵っ子、孤食──家庭の食卓に愛がなければ──何を食べても満たされない。非行に走る青少年の食事の質はもちろんのこと、粗末であっても家族の温かさ、安心安全がある場での食事が叶っていません。ご飯を独りで食す、お金が置いてある、という状況も問題です。

革命は目の前のお皿の上から実現できる。

 

Radha Chihiro
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